ボッセのハイドン 〜がんばれ在阪オケ!その2〜2009年04月08日

 さあ、春のがんばれ在阪オケ 第2段。今日は大フィルさんのハイドン。え、大フィルさんはがんばれ大フィルさんだろうって? まあ、それはそうなんだけどさ。今回はイズミホールの特別演奏会だし、せっかくの新シリーズなんだから、お客さんもほしいじゃない。気にしない気にしない。
 そう、今日は、ボッセのオールハイドンプロ。ちょっと前なら見向きもしなかったプログラムだけれども、バッハでいい演奏をたくさん聴かせてくれる大フィルさんだからね、ハイドンもさぞかし。結構楽しみだったんだよね。

 そうそう。
 ちょっと前に、菊地成孔の、東京大学のアルバート・アイラーっていう本を読んだんだよね。菊地さんっていうのは、ジャズのサックス吹きなのだけど、東大の教養でジャズに関する講義をした。その講義録としてまとまったのがこの本で、ジャズの歴史についてとてもおもしろくまとめていて、そのうち独立した記事として紹介しようと思っているのだけれど。
 その本曰く、音楽は過去に三度、記号化されていると。三度の記号化とは、十二音平均律、バークリー・メソッドそしてMIDIであると。バークリー・メソッドと時を同じくして発生したビバップと呼ばれるジャズは、分析の方法論としての記号を最初から持ち合わせていた希有な音楽であり、そのことが自覚的にモダン、プレモダン、ポストモダンを区別する独特の発展をした。ということなのだけれども。
 簡単にいえば、ドレミファソラシドっていう音階を作ることで、音楽は方法論を持ったよ、それ以後の音楽は、みんなそれにとらわれているんだよ、ってこと。
 誰もが再現することができるように音楽を書き表すこと、それが記号化。五線譜にオタマジャクシを書いて、これが音楽だってみんながわかるようになったのは、たぶんバッハの時代なんだよね。(違ってても受け付けないけれど)
 そして、誰もが理解できる記号化は音楽の裾野を間違いなく広げて。バッハが作った楽典と記号化の広野でなんの疑問もなく楽しめた時代、その音楽がバロック音楽なんだろうね。
 ちょうどチャーリー・パーカーが作ったバップという方法論の中で、カインド・オブ・ブルーによって夢から醒めるまで、みんながモダンジャズを謳歌したようにね。

 その、五線譜とオタマジャクシの幸せな時代、現在に残されている量から考えて一番と言っていいほど楽しんだのがハイドンだよね。十二音平均律の権化。
 この本を読んでから、僕の中でのバロック、あるいはその時代の音楽は、心地よいけれど退屈なラウンジのBGMから、何の不安もなく音楽をする喜びにあふれた時代の、パワー溢れる音楽に変わったんだよね。
 だから、じいさんボッセのハイドン、楽しみだったなあ。

 あ、演奏会だったね。
 
 予想に反して、といったら失礼だけれども、結構の大入り。この前のフーガの技法よりずっと入ってるよね。ボッセじいさん、人気者なのかな。ヴィンシャーマンもなかなかのものだと思ったけれど。

 演奏はね。
 曲とかあんまり知らないから、演奏の細かいところがどうとかそんなことを気にするきもなくて。
 ただ、音楽の楽しさ、ボッセじいさんのビジュアルからもきている暖かさを堪能したよ。
 五線譜とオタマジャクシが何でも表現できると単純に信じられた時代の音楽らしく、本当に鷹揚でね。きちんと音にしていったらそのまま形になりまっせっていう。その中にちょっとずつ、いたずらにも似たギミックを滑り込ませるのがハイドンの常なんだろうけれど、少人数の大フィルさん、そんなギミックもなにもかも正攻法で突き進む。
 気持ちがひねているときには、それが退屈に聞こえるのだと思うけど、アルバート・アイラーのおかげでハイドンの見方となった耳には、心地よさだけが強調されて聞こえたんだよね。

 二曲目、ヴァイオリン協奏曲のソリストは、15歳の男の子。郷古君。この子のヴァイオリン、僕は好きだなあ。音が太いんだよね。太くて、大きい。細かい技術や色っぽさが求められる曲じゃないから、その太さ、大きさがよく合うんだ。余りに気持ちよくてうとうとしちゃったけれど、気持ちいい夢うつつ状態だったな。
 アンコールは、同協奏曲の2楽章と、バッハの無伴奏から。唄ものいいね。また聞きたいな。

 ワーグナーとは違った意味で無限軌道のバロック音楽。金太郎飴ともいうけれど。でも、堪能しました。
 結局僕は、おじいさん指揮者が好きなだけなのかな、とか楽しく悩んでみたりもするけれど、いいやん、それでも。

 楽しいんだから。

 ただ、それだけのはなし。

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2009年4月7日
いずみホール特別演奏会Ⅰ〈ハイドン没後200年記念〉
大阪フィルハーモニー交響楽団
ゲルハルト・ボッセ:指揮
郷古 廉 :ヴァイオリン

ハイドン:
交響曲 第85番 王妃
ヴァイオリン協奏曲 第1番
交響曲 第104番  ロンドン