大フィルさんの、本気の、新世界 ― 2013年11月09日
さて、ミッキー月間が終わった次の、大フィルさん。
ラドミル・エリシュカ。チェコ出身の指揮者で、僕はあんまり覚えていないのだけれど、なんか評判が良さそうなんだよね。もう三回くらい指揮しているようなのだけれど、その度に大フィルさんの音が変わって行く、みたいな。
ヤナーチェクとか、そういうご当地作曲者の曲を好んで取り上げるみたいで。まあ、チェコの指揮者って、みんなそうだけれどもね。ヤナーチェク聴いたなあ、そういえば。そんなにいい演奏だったっけ?
あんまりよく覚えていないけれど。
ただ、今回のプログラムは、かなり気合が入っている、っていうのがよくわかるプログラム、なんだよね。
なんてったって、新世界。
あ、大阪ご当地の新世界ではなくってね、当たり前だけれど。ドヴォルザークの、交響曲第9番 新世界より。
もちろん、誰でも知っている、クラシック界の超有名曲で。演奏される機会も多いのだけれども。
なんで、この曲が気合の入った曲かって言えば。
定期演奏会で、そんなに取り上げられないんだよね。
ポピュラーすぎて、大フィルさんでいえば、新春名曲コンサートと、夏のこばけんの三大交響曲で、運命、未完成と一緒に演奏される、そういう、ファミリーコンサート向けの曲、なんだよね。
僕が聴いたコンサートも、なんか誰もやる気なかったねー、って若いヴァイオリンがブログで言っちゃうような、新春コンサートとか、地方巡業とかが多いものね。
だから、そういう大量消費されている有名曲を、「あえて」定期演奏会に持ってきて、きちんと3日間のリハーサルを経て演奏する、っていう気合。それをひしひしと感じたんだよね。
まあ、あんまりそういうことは考えていなかったのだけれども、大フィルさんのチラシの裏にそう書いてあったんだけれども、ね。僕的には、好き勝手やった今年の定期のプログラム、ここでバランスとったのかな、っていうくらいのものだったのだけれども。
でもまあ、誰も気合の入っていない、二日酔いのリハーサルを引きずるような演奏ではなくって、チェコの指揮者がきちんとリハした、ホンモノの新世界。どんな音がするんだろうね。
ちょっとだけ早く会場に着いて、来年度の体制についてのコメント聞きにプレトークに顔を出したら。質問コーナーで、「昨日いい演奏だったから今日も聞きに来たのだけれど、今日の指揮者、高齢だし、毎年呼んでほしいなあ」っていう質問。あれ、この前置き、前にも聞いたことあるな。プレトークマニアの常連さんなのかな。まあ、いい演奏らしいから、楽しみにしよう。
というわけで、オールドヴォルザークプログラムの演奏会。はじまりはじまり。
謝肉祭。
いやあ、びっくり。
なんなんだろう、この、音。先月のメシアンとか、フェスの天国と地獄とか、全く違う、音。
最初の一音で、僕はお腹がすいちゃったよ。
肉がみっしり詰まった、ぶっといソーセージ。程よく茹で上がったソーセージを、手でポキって折る。その時の、皮が破れて、肉汁がとびだす。そのっみっしり感。密度の高い音が飛び出してくる、その快感。
あまりに鮮烈な、ソーセージのイメージで、お腹が空いてたまらなかったよ。
その音の密度、それを保ったまま突入した新世界。
新世界って、お馴染みの曲だと思っていたのだけれども、なんかいろんなギミックが隠れてるんだね。こんな曲、だったんだ。楽しい。
ただ、もちろん、密度の高い音で、丁寧に奏でられるお馴染みの曲はすごく新鮮で、文字通り新しい世界を提示してくれるのだけれども。
それは、とても魅力的な演奏であるのは間違いがないのだけれども。
聴いているうちに、他のことも思っちゃったんだよね。
あ、これ、盆栽。って。
全体の形と、バランスをとって、丁寧に刈り込まれた、盆栽。
それは、シンフォニーホールでは心地良く響くのだけれども、フェスを満たす音なんだろうか。
タンバリンやトライアングルがやたら耳を刺す存在感を示していたから、全体的な音量としてはそんなに大きくないのだろうと思うのだけれど。音量を抑えて、全体的なバランスを重視する。それは、朝比奈のじいさんが絶対に取らなかったやり方。
それを、僕は心地よがっていてはいけないのではないか。
そう、思っちゃったんだよね。
この指揮者は、札幌交響楽団の常任らしく。シンフォニーや、札幌のきららホールのような、まあるいいい音がするホールでは、こういう演奏、すごくいいと思うけれど。
来年フェスに帰る大フィルさん、という耳で聞くと、ちょっと異論もあるんだよね。
まあいいや。フェスで鍛えられて、たくましい音になった大フィルさんを、2年後くらいに振ってくれるの、楽しみにしてるよ。
ただ、それだけのはなし。