マエストロの、最後のコンサート ミッキーと和慶さん2025年01月24日

 この間、「巨匠たちのラストコンサート」っていう新書を読んだんだよね。巨匠と書いてマエストロって読ませるんだけど。

 中川右介っていう、元(?)クラシックジャーナルの編集長の方が書いているのだけれど、クラシックの指揮者や演奏家の、最後のコンサートと晩年のエピソードを集めたものでね、面白く読んだのだけれど。

 バンドとかアイドルとかだと、解散コンサートとか卒業公演とかあって、これが最期だ感が(幸運にもチケットを取れた人には)味わえると思うのだけれど、クラシックの演奏家は、生涯現役っていう方が多いから、最後のコンサートって、「結果的に」最後になってしまった、っていうことが多いんだよね。

 この本の著者の中川さんは、本人が言うようにカラヤン信者の方で、この本に出てくる演奏家や指揮者も、カラヤンと何らかのつながりや因縁が会った人が多いのだけれど。


 僕も、クラシックのコンサートに通って四半世紀になるくらいのリスナーだから、その間に最後のコンサートを迎えた方も多数いらっしゃると思うのだけれど、後から振り返ってもその方の「最後の」コンサートにはであったことがないんだよね(定年退職をする楽団員は別にしてね)。

 僕がクラシック音楽のコンサートに通うきっかけとなった朝比奈さん(当時92歳だったのかな)は、2021年の名古屋でのコンサートが最後になってしまったので、僕は大阪でお留守番をしていて聴けなかったんだよね。


 僕が昔から名前を良く知っている指揮者に、秋山和慶さんがいてね。高校の音楽の先生が桐朋学園で、秋山和慶さんの後輩だったか教えてもらっていたかで、良く名前が出てきていたから、僕も高校生の頃から「わけいさん」の名前は知っていたんだ。

 実際に聴いたのは、たぶんそんなに回数はないのだと思うのだけれど、大フィルを指揮した定期。トゥランガリア交響曲、ベルシャザールの饗宴とか、和慶さんの指揮でしか聴いたことのない、珍しくてムツカシそうな曲を聴かせてくれる指揮者だったんだよね。しかもその難しいであろう曲を、なんかやさしく包み込んでしまうような上品さもあるんだよね。(写真とか事後の刷り込み、かも知れないけれど)

 その秋山さんが、今年の元日に怪我をされて、その影響で急遽指揮の活動を引退されたんだ。この3月にまた大フィルさんを振る筈で、それを楽しみしていたのだけれど、その前に結果的に大晦日の年越しライブが最後になってしまったんだね。

 この怪我と引退には何にも関係ないのだけれど、和慶さんのCDがセールで割引されていたので、大量に買ったんだよね、去年の年末かな。ベートーヴェン、ブラームスの全集に、チャイコフスキー後期、ハイドンとモーツァルトの交響曲集。少しだけアップグレードしたPCのオーディオで少しずつ聴いているのだけど。なんかいいんだよね。あったかくって。今はハイドンの48番がかかっているのだけれど。

 僕もむかしは聴いた演奏会を何らかの記録に残していたのだけれど、もうかなりの期間それをさぼっていて。だから和慶さんの演奏を、いつ、どんな曲で聴いて、どんな印象を持ったかってたぐることが出来ないんだ。ちょっと悔しいね。

 僕にとっての和慶さんの最後のコンサートは、2020年2月の大フィルさん定期で

チャイコの1番を聴いたとき、かな。


 もう一人、去年いっぱいで指揮者を引退した人がいてね。井上道義さんっていう方なのだけれど。本人がミッキーって呼んで、というので、ミッキーっていうけれど。

 ミッキーは、朝比奈さん時代から大フィルさんになんかのポジションがあったのかな。定期には良く登場していたんだよね。人気の指揮者だから、いろいろなところで聴いたけれど。岩城さんが亡くなったあとのオーケストラアンサンブル金沢の指揮者もしていたよね。

 大フィルさんとは、オオウエエイジの後に、音楽監督ではなく首席指揮者を3年間ほどしてくれて。ひねくれた選曲が好きだったなあ。

 そのミッキーは、2024年の年末で引退、というのをたぶん一年前くらいに宣言して。その後怒濤のカウントダウンコンサートと銘打った演奏会を、たぶん大阪だけではなく日本各地で行ったんだろうね。

 僕は、大フィルさんのミッキー最後の定期でショスタコ13番と、それからシンフォニーホールのブルックナー7番を去年、聴いたよ。

 ブルックナーはね、モーツァルトの交響曲が前半にあったのだけれど、その1楽章が終わった後に、やおらミッキーがマイクを持って振り向いて「昨日の結石の影響で、2曲を振り切る体力がない。だからブルックナーに集中させてほしい。みんなブルックナー聴きにきたんでしょ」って。

 ブルックナーはそんな体調不良を感じさせない演奏と拍手を受ける千両役者振りで大満足の演奏会だったけれど、ちょっと痛々しくって、それ以降のカウントダウンコンサートには行ってないんだよね。

 ミッキーのライフワークであるショスタコと、僕のフェイバリットであるブルックナーを聴いたので、思い残すことはなく、「僕にとってのラストコンサート」を堪能した、っていうのが大きいのだけれどもね。

 しかし、ブルックナーの演奏会、なんで文章として記録に残していないんだろう。。不覚。


 朝比奈さんが90歳を超えてから、指揮するコンサートが軒並みプラチナチケットになって。その時に息子の千足さんが、「みんなは演奏を聴きにきてるわけじゃなくって、親父の「最後のコンサート」になるかも知れないっていう期待で集まっているだけだ」みたいなことをいってた、って何かで読んだけど。

 最後になってほしい、っていう期待なのか、最後に近いから聴き逃したくない、って思ったのかよく分からないけれど、僕も朝比奈さんの(結果として)最後の2年間で、19回の演奏を聴くことができたよ。

 札幌や東京にも行って聴いたのに、名古屋にはなんで行かなかったんだ、っていう思いも少しあるけどね。なんでっていっても、その後に大阪で同じプログラムを演奏してくれる筈だったからなのだけれどもね。

 なので、僕にとっての朝比奈さんの最後のコンサートは、2001年9月24日シンフォニーホールでのブルックナー9番になったんだね。

 この演奏会は、幸いCDとしても発売されていて、統率力には翳りが見られるが、贅肉をそぎ落とした、音の向こうにスコアが見えるような、そんな白鳥の歌。っていう評価があった、ような気がするんだよね。聴いた演奏がCDになっているって、なんか嬉しいし、他の録音とはひと味違って聴こえるんだよね。


 僕はこれからも音楽会に出かけていくし、結果的に最後の演奏会にもであうのだろうけれど。でも、音楽は一期一会だからね。常にこの一回、の気持ちで大切に聴いていきたいなあ。


 ただ、それだけのはなし。

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