PACのマーラー「千人の交響曲」 あれから30年2025年01月21日

 そう、これは1月17日の演奏会、なんだよね。

 もっといえば、2025年1月17日、の。


 普段は午後3時開演となる、兵庫県立芸術文化センター管弦楽団(PACって呼ぶね)の、金曜定期。この日のチケットには、開演時刻、午後5時46分、って書いてあったんだよ。

 今から30年前、阪神・淡路大震災が起こった午前5時46分の、十二時間後。

 そして、プログラムは。

 あまちゃんの音楽を書いた大友良英さんの委嘱作品、そらとみらいと、と、マーラーの交響曲8番「千人の交響曲」。

 兵庫県立芸術文化センター、それからその専属オケであるPACは、阪神・淡路大震災の復興のために作られたホールであり、オーケストラ、なんだよね。震災の10年後に創られて、今年が設立20周年、震災から30年。

 その、オケが、震災の起こった1月17日に行うコンサート。特別なプログラムを用意してくれたんだよね。


 開演前に、プレトークショウがあって、指揮者の佐渡さん、それから委嘱作品の作曲者の大友さんがステージに上がった(能登の震災への寄附金を渡す、という事で七尾市長も来てたけれど)。

 大友さんは福島で活動している音楽家で、その縁で東日本大震災前後の三陸を描いたあまちゃんの音楽を担当して。その縁で(なのかよく分からないけれど)今回の、阪神/淡路大震災30年メモリアル委嘱作品の委嘱を受けたんだ。普段はクラシックの作曲をする人ではないから、編曲家さんとかとグループを作って、この日の演奏のために大っきな曲を作ってくれた。

 ちなみに、PACの委嘱作品は二つ目で、もう一つは坂本龍一さんが作曲したらしい。

 

 プレトークのあと、5時46分頃、一分間の黙祷。

 そして曲が始まるのだけれども。


 30年前、新入社員だった僕は、大阪で一番兵庫寄りの、西淀川区に住んでいてね。震災の当日は出張で東京に宿泊していたから、揺れには直接会わなかったのだけれど。

 翌日、京都駅までは動いた新幹線と、なんとか動いた在来線を乗り継いで会社に戻ろうとしたら、会社の人から「とにかく家を見てみなさい」って言われて、家の扉を開けたら、家中のモノが散乱した部屋の中に呆然としたな。

 7階建ての鉛筆ビルだけど、エレベーターは動いているし、電気も水も来ていたから、被害なんてうちには入らないのだけれどもね。

 そんなことや、そのあとのいろんなことを想い出しながら、黙祷を捧げたよ。


 曲はね。

 大友さんの委嘱作品は、三部構成になっていて。最初は美しいレクイエム、鎮魂。つぎが即興=ライブを取り入れたLIFE。そして、祭り囃子のリズムが支配する三部、祭りと空と。

 21世紀の日本のクラシックは、伊福部さんや大栗さんのような土俗的なスケールや旋律ではないけれど、間違いなく日本の音楽で。阪神のあと、福島があり上越があり、そして能登があったように、ものすごい頻度で起こる災害に対しても、鎮魂・生命・そして祭りと空(現在への感謝と未来への希望)。

 この曲が、復興を必要としている、いろんな場所を力づける、そういう曲になっていくといいね。そういう使命を持ったオケ、PACがもって飛び回ってもいいし、他のオケがどんどん演奏できるようにしたら、もっといいよね。


 そして、マーラー8番、千人の交響曲。

 マーラーは、大っきな編成で演奏効果があるから、生で聴く回数も多いのだけれど、8番って、聴いたことあるかなあ。

 別名千人の交響曲、っていう通り、演奏者がたくさん必要なでっかい曲。生で聴いた記憶はないなあ。実際、初演では千人以上の演奏だったらしいね。

 交響曲の長大化、重厚化を推し進めて、結果的に交響曲に終わりを告げたマーラーの、後期の最大スケールの曲がこの8番だよね。

 とはいえ、CDはいくつも持っているのだけれど、曲についてはほとんど知らないのだけれどもね。マーラーの曲は、ダイナミックレンジが大きすぎて、家では流し聞きが多くなっちゃうんだよね。


 ステージは、合唱のためのひな壇が10段(両脇にはさらに2段)、ハープ4台、ホルンとラッパ8ずつに更に両側にバンダがあって。歌のソリストも、前に7人、ひな壇後方に一人。合唱団も、マーラー「千人の交響曲」合唱団って書いてあるから、この演奏のための特設合唱団だと思うけれど、それに加えて、児童合唱団4つ。KOBELCOホールのステージって、こんなにでっかくなるんや、って。僕は2階席から見ているのだけれど、この日ほど2階席で良かった、って思ったことはないね。

 オケのメンバー表見たら、通常のトラの他に、以前このオケに在籍していたメンバーも来てくれてるんだね。


 とにかく、総力戦。


 演奏はね。もう、演奏がどうとか、そういうことはよくわからないし、そういうことを気にするレベルでもない。

 震災復興のためにつくられたオケが、それを20年引っ張ってきた佐渡さんが。この演奏会のために難解な歌詞の合唱をひたすら練習して来たアマチュアの音楽家が。

 大赤字覚悟でこんなでっかい興行を打ったオーケストラが、それを認めた兵庫県が。

 阪神淡路のメモリアルだけれど、それだけじゃなくって。その後日本で、世界で被災した魂、がんばっている全ての人に向けた、それは人間賛歌。


 縦長のステージと、両脇のバルコニーから奏でるバンダが一緒になると、この高さのあるホールが、立体的な音に包み込まれて。

 1月17日の兵庫のホールに、確かに音が響き渡って、想いが伝わったよ。


 テレビカメラが入ったこの公演、どこかで放送されるのかな。楽しみ。


 ただ、それだけのはなし。