読んだ本のメモ May 20122012年05月24日

「南極点のピアピア動画」 野尻抱介
 月に衝突した彗星のおかげで、束の間、地球に出来るおっきな上昇気流。
 出てった彼女に、「宇宙につれてってやる」と伝えるためだけに、その上昇気流にのって成層圏に行く計画を立てた宇宙男。
それを可能にするニコニコ動画と初音ミク(ではないのだけれど)のマニアたち。
 萌えを小道具にしながら、科学考証を押し出した、きちんとしたハードエスエフ。さすが野尻抱介。
 しっかし、早川でこんな表紙の本が出るなんて。..


「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」増田俊也

 戦前の柔道界で、無敵の強さを誇った鬼の木村。
 流派の違い、プロ、そしてプロレスで講道館柔道の歴史から抹殺されて。
 そして、力道山とのプロレスでの血まみれの負け試合。

 柔道とは武術なり。負けとは死なり。
 常に実戦で勝つ柔道を求め続けた木村政彦。
 プロレスの約束を脳天気に信じ、力道山の仕掛けるセメントに対応できず敗れたあと、匕首を懐に力道山をつけ回した木村政彦。
 スポーツとしての柔道に適応できなかった時代遅れの武術家たちの、不器用で、人間くさい生き方のルポタージュ。
 700ページの分厚い本。ひさびさに満腹感を満喫。

「失敗の本質―日本軍の組織論的研究 」野中郁次郎他
 第二次世界大戦の、日本の軍事的失敗をケースと考察を織り交ぜて解析し、現代日本に流用しうるインプリメンテーションを得る、というのが主旨。
 ケースの部分は面白いけれど、それが軍事組織論になり、日本企業組織論になり、結局加護野先生の言葉でしめられると、いかにも野中先生だなあ、ということになってしまってちょっと残念。
 目標も戦略も持ち得なかった上層部と、ホウレンソウもコンプライアンスもなかった現場。問題てんこ盛りで、結局本質はどこにあったのだろう。
 身につまされるのは間違いないけれど。


「告白」 湊かなえ
 松たか子の演技が印象的な映画を観てから読んだのだけれども。
 斬新に見えた映画の演出も、小説に比べたらまだまだ親切だったんだ、って。
 そのくらい、昨今の懇切丁寧な小説に比べたら潔い、小説。
 映画から観ても、小説から読んでもいいと思うけれど、僕は映画から観てよかったなあ。

「アミダサマ」 沼田まほかる
 話題のまほかる、「九月が永遠に続けば」に続く、僕にとっての2作目。
 ぞくっ、ってする舞台をこしらえるのはものすごく上手いんだよね、この人。
 現実の一皮剥いたその下には、っていう描写力については今後を期待。
 とはいえ、もうお腹いっぱい気味なのだけれども。

ただ、それだけのはなし