飛龍伝'03 のおもいで2010年07月14日

 つかこうへいさんが亡くなったね。
 僕は、演劇にはとても疎い人間だから、これからつかさんが精力的に活動されていても、そんなにつか作品に触れる機会はなかったと思うのだけれども。
 でも、僕がたった一度体験したつかさんの舞台、2003年の飛龍伝。強烈だったよ。広末目当てで観に行ったのだけれども。
 その時の感想文を、別のHPにのっけたやつだけれど、ここにのっけて、ウイスキーを一杯献じます。
 つかさんは献じられるのが好きじゃなさそうだから、とりあえず妊娠発表前日の、あの時のヒロスエに、乾杯。




 なんていえばいいんだろうね。

 あの日、僕は確かにココロを鷲掴みにされて振り回されて、それから放り投げられた。

 それはそれは大変なショックで。

 でも何故か。何でかわからないのだけれども、それは言葉となって降っては来なかったんだよね。いつもなら、帰り道で言葉が塊となって降りかって、僕はそれを交通整理するだけなんだけど。


 今となればわかるんだけどね。何で言葉にならなかったのか。

 今となれば、わかった上で言葉にできるんだけどね。それだけのテクニックを、僕は身に付けてきたから。

 でも、そうはしたくないんだ。あの日のあと、いくつかの大嵐や小嵐が吹き荒れて、その嵐に角を削り取られてしまったあの日の感情を、さも今見てきたように書くことは、したくないんだ。

 それは、とても失礼なことだと思うから。

 このお芝居を創り上げた人たちに。それから僕の感情に。


 だから。

 時とともに薄れていく印象と闘いながら、角が取れた感情を元に戻して。

 その過程で見え隠れするふさがっていない古傷。その裂け目を直視する勇気をかき集めて。

 あの日の雨と、マックのハンバーガーと、緞帳からもれる硝煙の匂いを呼び起こして。


 いざ、開幕。


 僕は、泣いたよ。

 何にもわけわかんなくなって、ただ、泣いた。それは、悲壮な覚悟で運命に飛び込んでいくヒロスエが哀れだったからではなく、無為に死んでいく人々が悲しかったからでもなく、初めて観るプロの芝居の迫力に圧倒されたからでもなく。

 いや、そのすべてが入り混じっていたことはいたんだけれども。


 どんな話なのか、ちっとも知らなかったからね。

 幕が開いていきなり、ヒロスエのfly me to the moon。In other wardsってところを、インアザーワーズって発音する生ヒロスエ。めっちゃかわいい。それに続く殺陣とダンス。

 そこまででだまされたんだよね。ああ、お気楽アクション系エンターティメントなんだ、って。


 お話は、安保闘争吹き荒れる時代。飛ぶトリを落とす勢いで全学連会長候補になった桂木の情婦になった東大新入生の神林(ヒロスエ)。行きがかり上全学連会長になって。くだらない情夫の姑息なたくらみで、機動隊員の家にスパイとして転がり込んで生活するうちに…

 っていう感じなんだけれどもね。


 お坊ちゃま気分が抜けない大学生の活動家と、中卒の機動隊員。頭がよくて臆病でずるい桂木に陥れられて、一緒に暮らすことになったのはずっと神林を思っていた機動隊員、山崎(筧)。二人の間には愛情と子供が芽生えて。


 一緒に暮らしつつも、今日はまだいるだろうか、明日は出て行ってしまうんじゃないだろうかと安心できない山崎。だんだんと山崎に惹かれつつも、桂木への思いも断ち切れない神林。

 子供ができても、作戦のために生んだ子かと悩む山崎。生まれた子供を誰も祝福してくれない作戦と神林の家庭の事情。

 どうしようもなく神林に惹かれつつも、作戦のための生活かとやけになる山崎。気持ちは山崎に向いているのに、作戦のためではないと断言できない神林。


 後半は、ほとんどヒロスエと筧の二人芝居なんだけれどもね。


 自分は中卒。相手は東大。夢想もしなかったところに転がり込んだ恋。抱きしめても愛の言葉をささやいても、子供ができてさえ相手の愛情を信頼できない山崎。それだった問い詰めるか、それとも一気に終わらせるか。それすらできないだめオトコ。

 

 全学連の権力闘争に巻き込まれ、許婚に送り込まれたこの役目。純真朴訥な機動隊員に心は動くが、既に決まった許婚。

 子供とともに大きくなる機動隊員の存在。迫る決起。機動隊員の家から、機動隊の配置図を全学連に送るヒロスエ。


 多分ヒロスエの根にあるのは山崎への想い。ところが桂木への想いもうそじゃない。

 山崎にしてみれば、やっぱりどうにも信じられない。神林が俺を選ぶなんて。どうせ作戦に決まっている。でも作戦で子供まで作るか? いや革命闘士ならやるかもしれない。それでもいいじゃないかたとえ許婚がいたって。はっきりさせたらきっと神林は出て行ってしまう。


 何度も何度もおんなじことを書いてるね。ごめんなさい。つまり二人の芝居は堂堂巡り。出口なんかありゃしない。


 その堂堂巡りの中でね。機動隊員山崎の一途さとせこさとかっこ悪さと、だめさ加減とね。ヒロスエの覚悟を決めた強さと凛々しさと、でもちょっと残る未練と。


 この二つの関係がね、どうしようもなく魅力的で、どうしようもなく身につまされて。


 それは、僕の中で美化された、理想の関係。どんな結末になるにせよ、ここを経なかったら何も終われない、そんな関係。

 そんな事考えてたらね、涙がぼろぼろ出てきてとまらなくなった。


 物語は、この二人の関係は、想像もつかない激しさで終わるのだけれども。

 まるで物語のような激しさと、その部分は淡泊なつかの演出と、なによりもう泪は出尽くしてたからね、最後はきちんとお芝居として楽しめました。


 カーテンコール。全編ナイロンのつなぎでがんばったヒロスエもドレスを着て。いつまでも続く拍手は、筧が「ここから先は別料金になります」って叫んでもまだ続いて。

 会場が明るくなっても、しばらく席を立てなかったよ。


 すごいね、芝居って。



 ちなみに。

 大阪4日間公演の、二日目に僕は見に行ったのだけれども。見に行った次の日に、ヒロスエ妊娠、結婚報道。

 僕は一度しか観ていないから、断言は出来ないけれども、舞台上のヒロスエは、少なくとも端から見てるうちでは、身体をかばうためにアクションを加減したりとか、そういうことはいっさい気がつきませんでした。

 でも、報道される前に観てよかったな。変な心配と、変な疑い(演出が変わったんじゃないかとかね)を持ってみるのも、いやだしね。


 僕はヒロスエのプロの仕事を生で見たからね。結婚しても子供産んでもいいけど、仕事は続けてね。お願い。



  ただ、それだけのはなし。

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