Muti and Pollini in Chicago!! ― 2013年04月30日
さて。
ゴールデンウィーク真っ盛りな人もいれば、分断されたお休みの真ん中に仕事に行っている人もいるのだろうけれど。
今日は、寒いね。
三寒四温を地でいっている今年の春。ただ、その振れ幅が結構大きいなあ、と感じるのは、気候の変化に身体を合わせるのが大変になってきたのかなあ。
まあいいや。
あんまり気候のことを云ってもしょうがないんだよね。
先週一週間、別の所に行っていたのだから。
という訳で、シカゴに行って来ました。
まあ、仕事なのだけれど。
本当は、ちょうどその期間中に。日本で僕がずっと楽しみにしていた、フェスティバルホール・大フィルさんのこけら落とし公演、オオウエエイジの復活があってね。どうしても観たい公演だったから、後ろ髪を引かれながら。チケットは他の方に譲って、シカゴに旅立ったんだよ。
その替わりといってはなんだけれど。ちょうど出張の最終日の夜に、シカゴ交響楽団の演奏会があってね。こちらを聴いてきたよ。
ムーティーとポリーニ。
モーツァルト ピアノ協奏曲21番。
シューマン 交響曲第3番 ライン
そのほか。
海外に行ったときには、出来るだけ土地のオーケストラを聴きたいな、と思っていてね。ミュンヘンフィルとか、ニューヨークフィルとかの超一流のオケの他に、ウィーンシンフォニカーとか、ミラノのオケとか、日本ではあんまりCDでもお目にかからないようなオケも日にちがあえば聴きに行っているのだけれど。
出張の短期間の滞在だから、日程が選べるはずもなく、演奏者や曲目は、あるものをありがたく聴かせていただく、っていう感じなんだよね。
それが、今回。
選んだ訳ではないのだけれど、僕がずっと聴きたいと思っていた、ムーティ/シカゴ響。
何年か前、初めてシカゴに行ったときも、シカゴ響の演奏を聴いたんだよね。何を聴いたか、誰が振ったかは忘れてしまったけれど。その時に初めて、そのシーズンからムーティがシカゴ響の常任になったって知って。
ずっと聴きたかったんだよね。
ムーティは、高校生の時から、僕のFavoriteな指揮者で。その頃はフィラデルフィアを振っていて、イタリア人らしい、若々しいリズムと、管楽器の煌びやかさが大好きでね。ハルサイとか、ローマの松、ボレロなんか、今でも僕の知っている中ではダントツ一番の演奏なんだよ。レコードも、そういう、高校生に受けやすいレコードが多かったしね。
その後、ミラノ/スカラ座の音楽監督になって。僕はバブル真っ盛りのNHKホールにムーティ/スカラ座のナブッコを聴きに行ったよ。
まあいいや、その頃からのファンだったんだ。
そして、シカゴ響といえば。
吹奏楽少年だった僕にとっては、シカゴ響っていうのは、ちょっと特別なオケでね。
もちろん、ショルティが振っていた、あの、シカゴ響のことだけれども。
何しろ、金管楽器がものすごい。ぶりぶり。
ムーティの振るフィラデルフィアの金管はぴかぴかしていて、時に苦しそうにもなるけれど、シカゴはぶりぶり。涼しい顔でものすごい演奏をするんだよね。ってレコードでしか聴いたことがないから、涼しい顔かどうかは分からないのだけれど。
そんなシカゴ響を、ムーティが指揮する。考えただけでわくわくしちゃうよね。
という訳で、コンサート、行ってきたよ。
インターネットで予約したチケットを、ちょっとはやめにBox Officeに行って受け取ってね。窓口には、当日券はありません、ってセロテープで貼ってあった。そりゃあそうだよね。
シンフォニーセンターのホールはね、4階まであるのかな? 2階がボックス席になっていてね、オペラハウスのように小部屋がずらっと取り囲んでいて。僕は1階席のちょっと後ろの方だったから、2階席の屋根が張り出していてね、音響的にはちょっと不安、だけれども見やすい席。
お客さんは、老夫婦が多くて、あとはまんべんなく、ドレスで着飾った高校生たちもちらほら。もちろん満員。
そして、演奏。
コンマスが着席したステージに出てきたムーティ。僕が最後に生で見たのは、いつだったっけ、いずれにしても20年以上前だと思うのだけれども、いつの間にか白髪交じりの、堂々たる風格。歩き方はすたすたしていて、若々しいのは変わらないけれどもね。
ああ、もう。
こんな一個一個書いて行ったら、全然たどり着かないよ。
あの、音に。
ベートーヴェンの序曲で、もうその音が聞こえていたのだけれどもね。
ピアノがステージに上ってきて、ポリーニの、モーツァルト。ポリーニも、ピアニストに詳しくない僕でも名前を知っている巨匠。まだしゃきっとしていたよ。
その、ピアノ協奏曲。
最初はね、ちょっとポリーニが急いでるのかな、って思ったんだよね。
弦のアンサンブルの上を滑るピアノ。なんだけれど、ちょっとだけ上滑りをしていて指が転びそう。フレーズの最後で何となく帳尻あわせをしている、様に聞こえたんだ。
ちょっとはらはらしたのだけれど。
その状態でも、びっくりするのが、音。
なんていうんだろう。ポリーニのタッチは、すべての音の形が一緒なんだよね。パラパラと音離れの良い、アルデンテよりももう少し固め、髪の毛2本分くらいの芯がそれぞれの音に残っている、そんな、音。
その髪の毛2本分が、ピアノでもフォルテでも、長い音でも細かいパッセージでも、いつも変わらない。
オケだってよく鳴らしているのに、常に涼しい顔で主役として飛び出てくる、音。
それが、何とも言えず心地良いんだよね。
特に、3楽章からは、走りまくりのずれが気にならなくなって(多分、僕の耳の問題なのだと思うけれど)、オケの合奏の上を、息ぴったりに、自由に飛び回るポリーニのピアノ。全編カデンツァなんじゃないか、って思うくらい自由で楽しそうで。
ああ、モーツァルトなんだなあ。
っていうより、ああ、しあわせだなあ。こんな音の中にいられるなんて。
堪えきれない観客のスタンディングオベーション。僕も迷わず立って拍手を送ったよ。
ブラボーは云わなかったけれどもね。だって、声を出したら、眼からも何か出てきそうだったからね。
休憩のあと、メンデルスゾーンでラッパ3本のファンファーレを堪能して。
シューマンの、ライン。
この演奏会のチケットを取ってから、意識してこの曲のCDを聴いてみたり、来る飛行機の機内放送でもこの曲があったから聴いてきたりして。シューマン、っていう作曲家やその時代からイメージするより、ずっと親しみやすい曲だなあ、と思っていたのだけれど。
もう、楽しい。
アウフタクトやシンコペーション、三拍子とか、とにかくギミックが多い曲なのだけれど、まず、弦のアンサンブルがすごい。かっちり合わせる所から、フレーズの最初に1,2人飛び出す(ように聴こえる)ところまで、自由自在で、しかも堅苦しくない。
つまり、楽しい。
そして、シカゴの醍醐味。金管楽器。
もちろん、ぶりぶりのパワーもそうなんだけれども。それより驚いたのが、音色。ホルンのトゥッティが下降して、トロンボンに受け渡すところがあるんだけれど、上から下まで、トロンボンに変わっても音が変わらない。音の張りが変わらない。そんなことってあるの?
もちろんトゥッティの爆発力も堪能したのだけれど、もう一つびっくりしたのがその危なげのなさ。メンデルスゾーンのラッパ3重奏もそうだけれど、シューマンにも金管のソロがいくつもあったのだけれど、彼らには、息が足りなくなって音がふらつくとか、ハイトーンは失敗する確率だってあるんだ、とか。そういう常識は通じないんだね、きっと。手に汗握っているのはこっちだけで、涼しい顔で(涼しい顔そうな音色で)、危なげなく音が過ぎていく。
ああ、楽しかった。
シカゴ/ムーティの演奏、あんまりCDになってないんだよね。もっと聴きたいな。今回もマイク20本も立ててたんだから、発売してくれないかなあ。
ただ、それだけのはなし。
Chicago Symphony Orchestra
Riccardo Muti, conductor
Maurizio Pollini, piano
Muti and Pollini
04/25/2013 8:00 pm
Symphony Center
Main 1/3 Cntr. S 111
Beethoven: Consecration of the House Overture
Mozart: Piano Concerto No.21
Mendelssohn: Calm Sea and Prosperous Voyage Overture
Schumann: Symphony No.3 Rhenish