ヴィヨンの妻2009年10月18日

 浅野くんに広末に松たか子だからね、見逃す訳にはいかないでしょう。
 ヴィヨンの妻。
 
 浅野くんと広末は、ひと頃は出演作をコンプリートせねば、と勢い込んでいた二人でね。これだけでももちろんマスト。
 そして、別にあんまり好きっていう訳ではないのだけれどもね、松たか子。ただ、僕が生で見た女優さんって、広末と松たか子なんだよね。広末は飛龍伝で、松たか子は野田の贋作罪と罰で。
 野田のお芝居は僕には全く分からなかったのだけれども、古田新太の達者さと松たか子の必死さは印象に残っているんだよね。そういう意味で、要チェック女優。岩井監督の四月物語もあるしね。
 しかも太宰。
 
 まあいいや、とにかく観てきたよ。
 
 才能はあるけれど、堕ちていく願望の強い作家の浅野くんと、その妻、松たか子。浅野くんに惚れた広末と松の浮気を目の当たりにした浅野くんが心中を図って。
 っていう、太宰の私小説みたいなお話なのだけれど。
 こういう大正ロマネスクを演らせたら、浅野くんの右に出るものはいないよね。いや、進駐軍がいる時代だから大正ではないのだけれど。
 
 ヒゲを丁寧に剃った浅野くんの顔がつるつるで、えらい若返ったなあ、剣岳と比べて、とか思ったり。
 松たか子のセリフは、きっと小説のセリフそのままなのだろうけれど、太宰っぽいっていうかつげ義春だよなあ、とか。
 そんなことを思いつつ淡々と物語は進んでいって。
 
 一番の見所は、女優さんのアップなんだよね、この映画。
 心中未遂でみっともなく生き延びた浅野くんに逢いにいって、「亭主に心中された女房は、どうやって生きていったらいいんでしょうか」って涙を流す松たか子。
 留置場の金網越しにだんだんアップになっていく長回し。松の左右の目にバランス良くわき上がってこぼれていく涙。さすが女優さん。
 そして、広末。
 警察署でうなだれる松たか子とすれ違いざまに、勝ち誇った笑みを浮かべる広末。わかりやすいけれど、これしかないっていう会心の笑顔だったね。
 
 浅野くんはどこまでも無色透明で。どんな色もつけられそうなんだけれど、実はどんな色もついたことがないんじゃないかなあ。
 そこらへんが、少しじれったかったりするのだけれど、いつかは、って期待していつも楽しみにしているんだよね。
 
 劔岳に引き続き、あー面白かった。
 
 ただ、それだけのはなし。