オオウエエイジがやってきた arch.12003年05月10日

オオウエエイジがやってきた

 最初に断っておかなくてはいけないのだけれど、僕は現在、とても冷静ではありません。だから書く内容も、譫言のような戯言のようなものになるかと思いますが、ご了承下さいね。だって、、、おっとっと、先を読んでね。。

 気がつけば朝比奈さんが亡くなってから一年半にもなろうとしていて、大フィルも音楽監督不在の一年を過ごしたあと、正式な音楽監督を迎えた。その人はもう、ずいぶん前に発表されて、今年度のプログラムや、定期がシンフォニーホールに変わったことにも関与しているのだとは思うのだけれども、指揮者として僕たちの前に立つことはなかった。
 今までは、ね。

 そう、今日は大フィルの新しい音楽監督、オオウエエイジのお披露目音楽会。
 でも、音楽監督って、何する人なんだろう?

 まあ、今年から定期が二日間公演になったから、同じコンサートが昨日もあってそれがほんとのお披露目なんだけど、僕の行ってないコンサートは無いも同じだからね。僕にとっては今日がお披露目。オオウエエイジは一昨年かな、ミネソタフィルのハルサイのチケット取ったのだけれども、911で来日中止。その時に聴いておけば、どんな人なんだろうって、期待と不安が入り交じったわくわく感を楽しめなかったかも知れないね。

 さて、今回の公演は二日とも満員御礼。僕がとったのは二階席の二列目、ほぼど真ん中。超満員のシンフォニー、二階席と来れば、じいさんのベートーヴェンやブルックナー。たくさん並んだ椅子も、いっぱいつり下がったマイクも、テレビカメラも。何もかもが朝比奈隆の軌跡シリーズそのもの。これで嘘でもいいからじいさんが出てきてくれたら。
 あ、いかんいかん。今日は新生大フィル「復活」の日だったんだ。

 土曜日だということもあって、開演一時間前から入場して、どんどん埋まっていく客席を眺めていた。
 ステージの上には合唱用のひな壇と、オケ用の椅子が所狭しと並んでいたけれど、団員さんはまったくいなくって。あれ、シンフォニーになったからちょっとおめかししてオケ入場、とかやるのかな? と思ったらそのうち一人、二人と出てきた。そっか、いつもはもっと差し迫った時間からしか見ないからね。

 そのうち、合唱がステージ上の2階席に入場。道理で人が居ないと思った。その上ステージにも乗るから、すごいな、全部で合唱200人。そして、チューバ1,トロンボン4、ラッパ6,ホルン6人並んだ横には、まだ4個の空き椅子。いつ入ってくるんだろう、わくわく。
 いつの間にやらステージにメンバーがそろっていて、バンマス登場。今日はマリオじゃない方です。

 チューニングすんで、オオウエエイジの登場。若い、ちっちゃい。かっこいい、かどうかは音が出てからね。
 満場の開場を見回して、暗譜の指揮棒を振り下ろした。

オオウエエイジが大フィルにかけた魔法

 え?
 復活の始まりは、ヴァイオリンのトレモロの中を、チェロとコントラバスの「ダカダカダン」っていう音型が登っていくんだけれども。僕はブルックナー開始のイメージがあったからなのかな。その、チェロとベースのあまりの力強さに仰天。目が点。
 チェロとコントラバスって、脚のはえた弦楽器。自分の脚でステージに立って、ステージの床まで反響板として使う。その振動が床から壁を伝わって、空気と一緒に二階席に届いた。切れ切れのフレーズの余韻のあとに残るのは、こんなに小さく演奏できるの、っていうほどのトレモロ。リズムのある静寂。
 要は、最初の数小節だけで、虜。

 オオウエエイジのマーラーは、あまりに遠慮無し。ティンパニもシンバルもバスドラムも、クレッシェンドの果てのトレモロ、っていうところだってお構いなしにフルパワー。
 だけど、そのトレモロの音の隙間にしっかり弦の刻みが聞こえていて、満場のホールを音で満たす。
 この、弦の音がね。今まで聴いていたものとまったく違う。一言で言えば、クリア。明るい音色。マーラーだからこう、なのかは分からないけれど、マーラーにはよく似合ってました。次のベルリオーズにも似合ってるだろうけど。

 オオウエエイジの指揮は、軽やかで大振り。暗譜をいいことに指揮台を駆け回る。右のコントラバスを励ましたかと思えば次の瞬間左のセカンドヴァイオリンと一緒に歌い、後ろの手すりをつかんで前に身を乗り出してラッパをあおる。
 指揮だけ見てても面白そうなんだけどね、今日ばかりはそうも行かないんだ。

 なぜって?

 マーラーの曲はね、面白いんだ。人が多い上にダイナミックレンジは広いし、ソロも至る所に用意されていて、ステージをきょろきょろ。とても指揮者ばかりを見てはいられない。
 オオウエエイジが、ホルンよりももっと左、パーカッションの頭の上を指して指揮してるんだよね。出てくる音はホルンのコラール。でもホルンはそこじゃないよ、ってホルンを見ると、あれ? 吹いてない。
 なんとホルンは舞台袖にいるらしい。といってもステージに乗り切らなかった訳じゃないよ。バンダ。ステージ端にちっちゃな固定カメラがあったから、それで指揮をモニタしてるんだね。
 あとになるとバンダはホルンだけではなくて、ラッパと、ティンパニも出てきて(ってでてこないんだけど)。ヴァイオリンのお姉さんも一人、途中で袖から席に戻ってたからバンダだったのかしら?(これは、弦が切れてしまったために楽器を取り替えに行ったのだと、早速メールで訂正をいただきました。ありがとうございます。そうだよね、Vn一人でバンダやっても聴こえないもんね)

 バンダのホルンは時折ステージの開いた4個の席に入ってきて、ホルン10人のベルアップなどしてまたバンダに戻ったり、忙しそうでした。
 バンダで好きだったのはね、5楽章なのかな? 合唱のはいる直前。フルメンバーのバンダでティンパニ入りのコラールやってるところに、ステージ上のフルートとピッコロが絡む。ここの緊張感がね、何とも云えずによかったな。
 もうね、おいしいところがいっぱいありすぎて訳わかんなくなっちゃってるけど(時間が経ったら訳わかんなくなる、と思って珍しく当日に書いてるんだけど、あんまり意味なかったね)、イングリッシュホルンのソロがすごくきれいだった。トロンボンもね。

 しかし、長いね。
 深遠なアダージョとか、踊るようなスケルッツォとかじゃなくって、全編これフィナーレっていう盛り上がりだから(いや、緩いところもあったんだろうけどね。演奏がそう感じさせなかったのかな?)、疲れるのなんの。演奏する方もなんだろうけど、聴く方も汗だく。健康的なんだよね、一本調子ともいうけれど。

 曲は、やっとの事で合唱までたどり着いて。合唱はそんなにテンション一筋っていうわけでもないのだけれど、200人のメゾピアノって、とてもいい。あと、女声合唱の中をソロのソプラノが駆け上ってくるところ、ゾクゾクしちゃいました(曲をよく分かって無いから、どこの部分かわかんないね、すみません)。

 そして、コーダのトゥッテイ。
 前にも書いたけど、打楽器を含めてなんの遠慮もなしにみんな鳴らす。その中で、今までは金管楽器だけ埋もれてたんだよね。反響音を使うホルンは十分なんだけど。
 それが最後の部分では、トロンボンががんばった。それでこそ大フィルのトロンボン。ラッパはもう一息。これは好みだけど、あれだけの人数がいたらトゥッティの上の輪郭を支配できるはずなのに。

 でも、聴いてる時にほんとにそんなこと思ってたかは、覚えてないや。ただ、音を浴びてた。正面だけじゃなくって、横からも後ろからも降り注いでくる音(フェスにはこれがないんだよね)を、全身で受け止めてた。

 音が消えたあとの余韻も、全身で受け止めたかったんだけどね。

オオウエエイジが復活させたもの

 お決まりのフライング拍手。ブラボーはちょっと少なめ? こんなにいい演奏なのに。

 と、最初は思ったのだけれど。拍手の圧力がものすごい。笑顔で応えるオオウエエイジ。合唱指導者もステージに登って拍手を受ける。
 何度も続くカーテンコール。合唱を立たせ、几帳面にソリスト(コンマスも)を全員一人ずつ立たせ、パートを立たせ。オケを立たせ歌のソリストを何度もたたえて。
 それでも鳴りやまない拍手。
 客席を一回り、指さしながら見回して拍手を受けるオオウエエイジ。
 それでも鳴りやまない拍手。

 もう一度出てきて、オオウエエイジは懐からなにかを取り出した。
 小さい、写真。
 楽団員にかざして、客にもかざしたあと、コンマスの譜面台にのせて、譜面台ごと客席に向けて立ち去った。

朝比奈隆の、スナップ写真。

 それは反則だよ、オオウエエイジ。と思いながらも、じんと来た。

 それを合図に、オケは解散したけれども、まだ鳴りやまない拍手。
 オオウエエイジは、片付け途中のステージに一人で現れ、全身に拍手を浴びて観客全員の目をのぞき込んだあと、朝比奈隆を回収して立ち去った。それで、拍手は消えていったのだけれども、僕は、たぶん最後まで、拍手をしていた一人だと思うよ。

 オオウエエイジが復活させたもの。
 それはきっと、わくわくする感覚。今日はどんなコンサートになるんだろ、って楽しみにシンフォニーホールに向かう感覚。そして、じんじんする両手と、にやける顔でホールから出てくる感触。

 音楽監督って何する人かわかないけれど、楽団の顔になる人だよね。あの人が指導してる楽団、あの人が振るコンサート。
 僕はむつかしいことは分からないけれど、オオウエエイジの振るコンサート、オオウエエイジの指導する楽団のコンサートにはできるだけ足を運びたいな。

 にわかミーハー、いっちょ上がり。

20003年5月10日
大阪フィルハーモニー交響楽団 第368回定期演奏会
大植 英次:指揮
管 英三子:ソプラノ
寺谷 千枝子:メゾ・ソプラノ
大阪フィルハーモニー合唱団(岩城 拓也:指導)
大阪フィル
ザ・シンフォニーホール 2階BB列31番 A席

マーラー 交響曲 第2番 復活